クマが教える英語のしくみ


1-1■ クマが空から降ってきた ■
その日はとても初夏らしい、いいお天気でした。
見上げるとケヤキの新芽の間から見える陽の光がキラキラと宝石のようです。 ぽっかり浮かんだ白い雲がゆっくりゆっくり流れていました。

学校帰りの私は、そんなに気持ちがいい午後だというのに、なんだかとてもつまらない気分でいっぱいでした。中学の授業が始まったばかりなのに、期待していた英語の授業があまりおもしろくなかったからなのです。

中学に上がる前、私はこれから始まる英語の授業にとても期待していました。

「中学で習う英語は、挨拶とか、日常的なことから始まるんだろうな。きっと中学卒業する頃には英語がペラペラ話せるようになれるんだ。『ハーイ、ジョーン』とかなんとか言っちゃって...それから、英語の歌なんかもわかっちゃって、洋画も字幕なしで見れるようになるかも」

と本気で考えていたのです。

「でも、学校の英語の先生が教えてくれるのは、サンタンゲンのSがどうとかって、わけがわからない呪文みたいなことばっかり。日常会話に使えそうな表現っていえば、最初の頃に教わった" My name is Keiko. "ぐらいなもんじゃないかなぁ。

そうそう、この間お兄ちゃんに、『ねぇ、「図書館に行ってきた」って英語で言いたいんだけど、こういう表現っていつごろ教わるの?』って聞いたら、『中3になってからだよ』なんて言うの。『図書館に行ってきた』よ!こんな簡単な表現でさえ、あと2年も待たなきゃならないなんていったら、日常会話なんて何年先になるかわかったもんじゃないわ。まったくどういうことよ。もー」

ひとりぶつぶつとそんな事を言いながら、いつも道草する原っぱに出ると、上の方から声が聞こえてきたのです。
そう、上から!

「そんなふうに言わないでよ。ケイコちゃん」

「え?!」 見上げるとテディベアのような、人形みたいなものがふわふわと浮かびながらゆっくり降りてきたのです。

「えー?!何?!クマの人形?!」

「えへへ。こんにちは」

「え?!なんだって浮かんでるわけ、っていうか何で人形がしゃべってるのよ!」

「まー、まーカタイこと言わないで」

「カタイとかやわらかいとかいう問題じゃないでしょ!」

私はドキドキしました。なんなんでしょう、この人形は。

「それに何で私の名前を知っているのよ!」

「さっき、" My name is Keiko. "って言っていたでしょ?だからわかっちゃった」

あっけにとられていると、人形がまた口をききました。

「ケイコちゃん、ボクでよかったら『英語のしくみ』、教えてあげるよ」

「えー?!なんだってクマの人形のアンタが私に英語を教えてくれるっていうのよ。週に3回も学校で英語の授業があるから、十分なのよ」

ドキドキしながらも、私はこれ以上勉強することが増えるなんてとんでもないと思い、クマの人形に言い返しました。ワタシ、すっごく勉強きらいなんです。

「あれ?今、『図書館に行ってきた、って簡単な表現でさえ、あと2年も待たなきゃならない』とか、『日常会話なんて何年かかるかわかったもんじゃない』とか言ってなかった?」

「あ。なんだってアンタは人の話を盗み聞きしたりするわけっ?!」
私は赤くなった顔をごまかすために怒ったふりをしました。

「盗み聞きはひどいなぁ。それにボク、人形なんかじゃないよ。名前だってちゃんとあるんだからね。『クマ』っていうんだ。『森野クマ』」

「...タタ。なんだか頭が痛くなってきた。『森野クマ』って言う人形が空から降ってきて、私に英語を教えてくれるっていうわけなの?!」

私は本当に混乱してきました。

なんだってこういうときに親友のヤヨイとかアスカがいないんでしょう。ああ、さっき、商店街の角で二人とは別れたのでした。