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「さて、ではさっそく勉強を始めましょうか。おっほん」
『カラン、コローン』 どこかから鐘の音が聞こえてきました。
「えー?さっそく勉強開始なの?来週の月曜からにしない?」
「ダメダメ、こういう事は早ければ早いほどいいんだから。今日が初日です。ではまず、ケイコちゃんが知ってる英語の表現を、教えてください」
「え?私が知ってる英語の表現ですかぁ。うーん。コンビニとかヘアスタイルとかぁ」
「あー、そういうんじゃなくて...なんか文章になってるヤツがいいな」
クマは汗をかいてるように見えました。でも私、英語の文章なんか思いつかなくて...。あ、そうそう、これなら知ってる。
「"
I love you. "っていうのは?」
「そうそう、それそれ。ちゃんと文章になってるね。ところで意味は?」
「あ、そんな...中1の女の子にそんなこと...言えないわ...」
私はまた赤くなりました。
「『言えないわ...』なんて日常使ってない表現使ってるよ」
「と、とにかく言えないの。それはバレンタインの時に、チョコと一緒に渡すビンセンに書く言葉なのよ」
「あれ?そうなの?中学では」
「そうなの!中学ではジョーシキなの!『私はあなたを愛しています』なんて口にした日には教室中が...」
「言ってるじゃない」
「きゃー」
「『きゃ』じゃないの。そう、『私はあなたを愛しています』だよね。日本語だとなんだかすごく恥ずかしいかも知れないけど、英語ではそれほど恥ずかしい表現じゃないんだよ。日本語の『愛している』よりずっと日常的に使われている言葉なの。
love
って『愛している』っていう意味の他に『大好きだ』っていう意味もあるんだよ。英語の『 love
』のほうが、日本語の『愛している』より広い意味で使われているの。恋愛の『
love 』のほかに親子の『 love
』。「この本、大好きー」っていうときも『 love 』なの」
「ふーん」
私は、『それじゃ、もっと気楽に使いたいもんだ。テニス部の先輩に気軽にこの愛を告白したいもんだ』と思いました。
「ちょっと。ボーっと遠くをみつめてないで、現実に戻ってね」
「あ、はい」
「じゃ、今度はね。『あなたは私を愛しています』ってなんて言うか知ってる?」
「えっと。『あなたは私を愛しています』でしょ。『あなた』はだから
You で始まって ...love
でしょ。で、『私を』だから...I。You
love I!」
「ブー。惜しいねー。You
で始まるってちゃんとわかってるんだ。えらいね。でも I じゃなくて
me を使うんだ。You love me. 」
「ミー?あ、そーそー。学校でやったやったー。暗記させられたヤツー。
アイ、マイ、ミー、マイン。ユー、ユア−、ユー、ユアーズ。ヒー、ヒズ、ヒム、ヒズ。シー、ハー、ハー、ハーズ...。
全部言えるよ。でもこれどういうときに使うか、わかんない」
するとクマは黒板に向かい、白いチョークで、ある表を書き始めました。
「あ、それそれ。学校の先生が覚えておきなさいって言ってたの、それ。でもどうやって使うの?愛を告白するときに使うんだったら、絶対覚えておかないとマズイよね」
「愛を告白するときだけに使うわけじゃないの。でも絶対覚えておかないとマズイことは確かだね。じゃあね、この表を使っていろんな人に『大好き』って言ってみよう」
大胆なことを考えるクマです。でも私、その大胆さが気に入りました。
「えっと、その前に。単語の意味を確認させてね。
I, my, me, mine は『私は』『私の』『私を』...『私のもの』でしょ?」
「あ、よく覚えたね。でも、絶対その日本語がいつも当てはまるってわけじゃないんだよ。I
を『私が』って訳すときもあるし、me を『私が』って訳すときもあるんだ」
「えー。暗記することが増えるの?やだなー」
「うーん。『訳す』っていうのはね、『この英語の表現は、日本語のこの表現にあたるな』っていうふうに、表現全体を置きかえてゆく作業が中心なの。英語の単語を一つずつそのまま日本語の単語に置きかえていくと、できた日本文はとても変なものになっちゃうんだよ」
「そうかー。日本語ではこう場面ではこういう表現を使うけど、英語だとそういう場面ではこういう表現を使う、っていうふうに考えるわけね。てことはいちいちその場面で使われる英文を知っておかないといけないわけ?」
「うん。結局はそういうことだね。場面場面で使われる表現を覚えるのが最初。赤ちゃんの頃から覚えた日本語ってそういう風にして覚えたでしょ?『そういうときは、○○○って言うんでちゅよー』ってお母さんたちが辛抱強く教えてくれたから、ケイコちゃんは日本語を話せるようになれたわけだよね。かなりの量の日本語表現を覚えたわけ」
「てことはかなりの量の英語かぁ...。ふー...」
私は、やはり帰国子女だったらよかった、と思いました。あの子達はそんな場面を英語で何度も体験して、たぶんその英語が体に染み付いてるはずだもの。
「いま帰国子女だったらよかった、とか思ったでしょ?」
「げっ!なんでわかるのよっ!」
「顔にそう書いてある」
私は思わずハンカチで顔を拭きました。
「あの子達はね、向こうの学校とか日常生活でスゴイ苦労をしてきたの。まわりが英語の環境でも、しっかり日本語も勉強してきたから、あれくらい英語も日本語もできるようになったの。だから、ケイコちゃんもね...」
「あー。やっぱり苦労しないといけないのね。じゃ、CD聞いて3ヶ月で英語ペラペラなんてことはないの?」
「ないの。絶対」
私はなんだか目の前が暗くなりました。
「でも、もちろん今までの日本語の知識は生かせるから安心してね」
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